STAIRWAY TO HEAVEN

spiritual domain(B)-01
spiritual domain(B)-01 posted by (C)トロイ


「Mr.エマノン、斬首を見たことありますか?」とイエーメン人のマネジャーがオレに聞いた。
「いいえ、何でですか?」
「実は、明日、モスク前の広場で罪人が首を切られます。首切りを生業としている、どデカイ役人が大きな首切り用の剣を振り下ろせば、それで終わりなんですが、一度見ておくと、人生を考え直すこと間違いなし、ですよ。明日の正午の礼拝の後ですが・・・」
 とんでもない話になったものだと思いつつも、オレはたずねてみた。
「それで、あなたはどう変わったんです?」
「ご自分の眼で見ればわかります。まずはその眼で見ることですね」
 そう言って、彼は黙ってしまい、デスクの上の書類に目を通し始めた。
「サラマリコン」オレは右手を差し伸べ彼と握手をして、サイト事務所に戻った。

 自分の席の椅子に腰を下ろすと脱力感がおそってきた。左手でほほ杖をつき、ボケ~っとしたまま、まったく仕事が手につかない。オレはインドネシア人の運転手タイーブを呼んだ。
「明日、斬首の刑があるって聞いたが、ほんとうか」
「イエス、Mr.エマノン。行きますか?お迎えに行きますよ」
「ああ」とオレは応えてしまった。

 金曜日、オレはほかの日本人3人とともに、クルマで40分ほどのところにある町まで出かけた。
 町のはずれに設けられている駐車場で車を下り、タイーブも交えてモスク前の広場へと足を運んだ。昼間はほとんど人通りの無い通りが、今日は打って変わって人、ひと、ヒト…。
 モスク前の広場はすでにほとんど白一色に埋め尽くされていた。人々は回りにいる人たちに話しかけているのだが、残念ながらオレには彼らの話していることが分からない。
 町は、いや、正確にはモスク前のこの一角だけが、こわいもの見たさのような、なにかを期待するような独特の雰囲気に満ちていた。まるで祭でもあるかのように…。しかし、祭りとは全く違ったざわめきが周囲の緊張感を生み、モスク前の広場の空気を重くさせていた。


 コーランを詠みあげる声がスピーカーに乗って、炎昼の空に響き渡ってくる。広場にいるイスラム教徒たちはいつものように礼拝をしないのだろうか。タイーブに聞いてみようと思って、オレは横を向いたが彼の姿がない。
「タイーブは、どこへ行ったんだろう?」
 同行の日本人に尋ねたが、「知らない」「いなくなったのに気がつかなった」と言う。
「しょうがないヤツだなぁ」
と、言いながらも、(彼のことだから、どかで、礼拝をしているのかもなぁ)と思った。

 オレたち4人は無言のまま、広場の端に立ちながら、処刑が始まるのを待っていた。燦々と降りそそぐ太陽の光、人々の人いきれと容赦なく飛び交うアラビア語の嵐。広場は眼がくらみそうな暑さと熱気につつまれていた。

 時間だけが流れていった。

 やがて人々がゆっくりと白い波のように左右に揺れ始めた。いよいよ始まるのだとオレは思った。しかし、いっこうにそんな気配がない。
「Mr.エマノン。今日、処刑はありません。帰りますか?」
 ふいにオレの後ろでタイーブの声がした。
 オレの緊張感が一挙にとけた。ほっとしたのと同時に、心のどこかで斬首を見てみたいと思っていた自分に気づき、オレは急にヘビーになった。オレは同行の日本人に声をかけた。
「待ちぼうけだったようです。帰りましょう」

 帰りの車中はみな無言のままだった。何も言わずに、タイーブが私の好きな LED・ZEPPERIN のカセット・テープをかけた。彼もオレたちの沈黙に耐えられなかったのかもしれない。

 4曲目の"STAIRWAY TO HEAVEN"が始まった。
 "4"という数字は、「シ」が「死」に通じるところがあるので、時と場合によっては嫌われるんだよなぁ、と奇妙な偶然性を私は感じた。

 イエーメン人が言ったように斬首を見たほうがオレにとってよかったのか、それとも中止になって見ずに帰ったことが結果的にはよかったのか、オレにはわからない。

 翌日、仕事でイエーメン人のマネージャーに会ったが、お互いに斬首のことは口にしなかった。


 その後も、二度と・・・。



朝焼け-03b
朝焼け-03b posted by (C)トロイ




追記:

このストーリーはHP「夢幻のスペース・オデッセー」↓のコンテンツ「夢日記(ショート・ストーリー)」から転載したものに少し手を加えたものです。

 夢幻のスペース・オデッセー

お立ち寄りいただけると嬉しいです。

よろしく。

Thanks a lot in advance.
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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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Re: No title

トロちゃんさん

コメントをどうもありがとうございます。

斬首の刑の執行がその日は中止になり、見ずじまいで帰ってよかったといまは思っています。
もしそれを見ていたら、たぶん、いまなお私の悪夢となってうなされているかもしれませんよね。

No title

今晩は!

夢中でこれも読んでいました!
きっと見たら・・
人生代わるかもしれませんが・・
      みてないほうが??
プロフィール

KJYD

Author:KJYD
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どうもありがとう。


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