SOLEIL(ソレイユ)

camels in SAUDI ARABIA
camels in SAUDI ARABIA posted by (C)トロイ

      汗は眼にまだらの紐が眼前に


 SOLEIL(ソレイユ)

 足元に影が縮こまってしまう白昼、石油コンビナートの建設に携わる人たちのキャンプは死んだように眠っていた。頭上に輝く太陽からの強烈な光が私を包み込んでいた。白い光の中で無機質に存在しているキャンプのプレハブの建物と地に張り付いたようなその黒い影、そして砂地に造成された建物と建物を直線的に結ぶ白い道。それらは現実でありながら白日夢のような錯覚を私に思わせるのに充分だった。そんな光景の中に身を置くと、「異邦人」のムルソーが太陽の所為で殺人を犯してしまうのもわかるような気がした。

 松葉牡丹とアロエが植えられている間の白い小道が土色の茶葉のようなものに覆われていた。その道を私が歩き出すと土色の茶葉のようなものがいっせいに羽音をた立てて飛び交いながら、無数の黒い礫となって私にぶつかってきた。バッタの群れだった。映画などに出てくるイナゴの大群とは比べようもない程度のものだったが、沙漠の中にあるキャンプでのバッタの大群との遭遇に私は自然が持つ計り知れない生命力の一端を感じさせられた。
 バッタの群れを抜けた私はまだ足を踏み入れたことがないファミリー・キャンプに急に行ってみたくなった。

 単身者用のキャンプとファミリー・キャンプとの間に十字路があり、その中央にチョコレート色の肌をした警官が交通整理のために立っていた。クルマなどほとんど往来しない金曜日の炎天下、なんの必要があってそこに警官がいるのか私には見当もつかなかった。仕事とはいえ、その警官も自分がそこに立っている意義を見出せないのではないかと私は思った。
「サラマリコン」
 道路を横断しながら私は警官に挨拶をした。
「サラマリコン」
 警官が挨拶を返してきた。彼の額から頬にかけて、汗がキラキラと光りながら幾筋も流れていた。
 道路を渡りきったところで、私はファミリー・キャンプにそのまま行くよりは、しばらく彼を見ていたくなった。私は道路の縁石に腰を下ろした。縁石は焼けるほどに熱かった。
 警官が不意に持ち場を離れた。彼は道路脇に植樹された一本のひょろひょろとした高さ3メートルほどの木に近づいた。小用でもたすのだろうと私は思った。
 警官はやおら木の下にしゃがみ込んだ。その木が生み出すわずかな影からはみ出さないように彼は身を屈めて、じっとしていた。
 彼と目と目があった。彼の目が<お手上げだよ>と言っているように私には思えた。彼は膨張しきった白い太陽をうろん気に見上げた。そして両膝を抱えるようにして腕を組むと、彼はその中に頭を埋めて小さく小さく身体を縮めた。

「し・ご・と」と呟いて、警官は徐に腰を上げた。
 再び持ち場に立つと、彼は思い切りホイッスルを吹いた。その音色はクルマの通らない沙漠のどこまでも青い空にあっと言う間に吸い込まれいった。
 私はその場を離れ、ファミリー・キャンプの方へ歩いていった。白日夢の中の夢遊病者のように…。

 ファミリー・キャンプは建物からして造りが違っていた。一戸建ての家が立ち並び、歴とした住宅街の雰囲気を漂わせていた。人影もなく、クルマも通らない。
 スーパーマーケットに入ってみた。店内はがら~んとしていた。陳列されている商品は単身者用のキャンプにある店の商品とはクオリティが違っていた。当然、単身者用の店には置いていない物もかなりあった。レジの横に沙漠の絵葉書やラクダの絵の入った便箋などが置いてあった。私はそれらを買い求めた。
 主に欧米人向けのファミリー・キャンプだけのことはあって、小さいながらも図書館があった。入館の際にファミリー・キャンプの在住者かどうかをIDでチェックされるのかと思ったが、何事もなく中に入ることができた。閲覧室には誰もいなかった。私はエドガー・アラン・ポーの分厚いペーパー・バックを見つけ、夕方になるまで読みふけった。
 切りのよいところで私は本を書棚に戻し、図書館を出た。遠くの薄茶色の山並みに真っ赤な、とてつもなく大きな太陽がゆらゆらと揺れながら落ちていく。
 十字路にはまだ警官が立っていた。入日と共に彼の影が次第に長くなり、その影は、赤道直下の沙漠に一直線に延びる道路の上を地平線まで伸びていった。




追記:

このストーリーは、HP「夢幻のスペース・オデッセー」のコンテンツ「夢日記(ショート・ストーリー)」からの転載です。

 夢幻のスペース・オデッセー

他にもSaudi Arabiaでの経験をヒントにしたストーリーがあります。

お立ち寄りいただければ嬉しいです。

上掲のHPもよろしくお願いいたします。

Thank you.
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