Sentimental Deadlock

無人駅-01b(モザイク)
無人駅-01b(モザイク) posted by (C)トロイ


 黄昏。モザイクのような黄昏。

 駅のホームには誰もいなかった。
 たった一つある裸電球の黄色い明かりの下にたたずみながら、私は今日の出来事を振り返っていた。出来事といっても他人から見れば取るに足らないことかも知れない。

 この五年間、私のほうの事情から彼女と会えなかった。電話での連絡は取ってはいたのだが、それも次第に間隔があき始め、この半年はまったくのご無沙汰状態になっていた。
 私の身の回りのことがどうやら片づくめどが立ち、今朝、彼女に電話をしてみた。久しぶりに、いっしょに旅に出ないか、と。

 彼女とS駅で待ち合わせ、私たちは発車三分前のノース・バウンド行きの列車に乗り込んだ。
 車内はがらがら、私たちは適当なコンパートメントを選んで席を取った。進行方向左側の窓際の席に彼女を、そして私はその右側に。彼女は窓枠にほほ杖をついて、閑散としたホームをぼんやりと眺めているようだった。
 そんな彼女の姿を見ると、私は5年間の空白の重さをあらためて感じた。終わったのだ、彼女に電話をすべきではなかったのでは、と。
 私は彼女に話しかけることができなかった。

 発車間際になって急に周囲があわただしくなり、乗客が通路を行き来し始めた。私たちのコンパートメントも満席になった。
 私たちの向かいの席に、男がふたり、女性一人の老人たち。そして、学校帰りと思われる少女が私の右隣に座った。私はこの旅になにかしら嫌な予感を感じた。

 ガタンと車内が揺れ、列車がゆっくりと走り出した。彼女は相変わらず窓枠にほほ杖をしたまま、私のほうを見ようとはしなかった。
 老人たちが怪訝そうに私たちを見ている。その視線から逃れるように、私は目をつむった。

 私たちはホテルの部屋に入るやいなやお互いにひしと抱き合い、唇を合わせたまま、ベッドカバーのかけてあるベッドに倒れこんだ。
 生き物のようにうごめく舌を絡め合わせると、口の周りがお互いの唾液で濡れてきた。キスをしながら、私は彼女の太ももの内側に右手が触れるか触れないかの状態でソフトにさするように愛撫をした。私の手の動きに素直に反応する柔らかな心地よい肉体の感触が指先から私の脳髄に伝わってきた。
 私がさらに奥へと手を滑り込ませたとき、私の身体が前後に揺れて、私は目を開けた。

 私の前に座っている3人の老人たちが、侮蔑に満ちた目で私をにらんでいる。
 ハッとして私は右手を引いた。隣の席で居眠りをしている少女の、スカートからはみ出している左ももに私の手が置かれていたのだ。
 車窓に顔を向けている彼女がそれに気づいていたのか否か、私にはわからない。彼女は席に着いたときと同じポーズで相変わらず窓の外を見やっていた。
 私に気まずさが襲ってきた。

 その気まずさを助けてくれるかのように列車のスピードが次第に落ちてきた。駅名の大きな看板が目に入ってからしばらくすると、列車はホームに滑り込んでいき、前後に小さく揺れて止まった。
 彼女はホームに何かを見つけたかのようにふいに立ち上がると、何も言わずにコンパートメントから出て行った。
 列車は長いこと止まったままだった。
 私はいっこうに戻ってこない彼女のことが心配になってきた。彼女は私の右手が少女の太ももの上に触れていたのに気がついていたに違いない。それで、・・・。

 私はコンパートメントを出ると開いている乗降口から身を乗り出してホームの左右を見渡した。しかし彼女の姿はいっこうに視界に入ってこない。
 具合の悪いことに、反対側のホームにも列車が到着し、ホームは乗降客でごった返してきた。私は列車を降り、ホームの人並みをかき分けながら彼女を探した。

 気がつくと、列車が静かに動き出していた。私はまだ開いていたドアのステップにあわてて飛び乗った。
 ワゴンの通路を私たちのコンパートメントのほうに歩きながら、私は一つ一つのコンパートメントをのぞいていった。どのコンパートメントも満席で、ドアの脇には「予約済み」の表示がなされていた。どう考えても、こんなとろこに彼女がいるはずはなかった。
 いくら歩いても私は私たちのコンパートメントに行き着けなかった。自分たちのコンパートメントの番号を見ていなかったことを私は後悔した。

 全ての車両を私は見て廻った。

 どのコンパートメントをのぞいても、あの老人たちも少女もいなかった。車内に残してきた私たちのバッグ類を見つけることもできなかった。
 ホームの反対側に停車していた列車に間違って飛び乗ってしまったのではないかと私は不安になった。

 列車がトンネルに入った。長い長いトンネルだった。やっとトンネルを抜けると、景色は闇につつまれていた。
 狭い通路を歩きながら、次の駅で降りなければ彼女に二度と会えないような気がした。



無人駅-03a
無人駅-03a posted by (C)トロイ


 暮れなずむ谷間。
 駅のホームで、私はひとり列車の到着を待っていた。

 この駅で降りてから何時間たったのだろうか。駅舎も駅名表示板もないし。ホームには電灯もなく、時刻表も時計もない。腕時計の液晶の数字さえも、なぜか読み取ることも出来なかった。
 いまとなっては、もう、列車が上りか下りかなどどちらでもよかった。先に着いたほうの列車に乗ろうと私は決めた。ともかくこの状況から抜け出すことが先決だからだ。

 列車が近づいてくる気配を私はいくども感じたが、いっこうに列車はその姿を顕さなかった。
 谷間を駆け抜ける風の音が、私の耳には鉄橋を渡ってくる列車の音のように聞こえたのだろう。

 私がいい加減に諦めかけたとき、遠くに赤いライトが二つ見えた。どう見ても、それは機関車のヘッドライトではなかった。最終列車の最後尾の車両の赤いテールランプなのだろうか。もしそうなら、列車が逆走していることになる。

 赤いライトは音もなくどんどん近づいてくる。

(これに乗るしかない)と私は思った。



終着駅-01
終着駅-01 posted by (C)トロイ


 名前のない終着駅。
 誰もいないホーム。
 私は当てどなく次の列車を待っている。




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