The Another Stream Of Consciousness

 車内放送が流れた。
「ご乗車中の電車の車両故障により、お忙しいところご迷惑をおかけいたし申し訳ございません。当駅より先、○○経由、△△方面にお越しのお客様は恐れ入りますが向かい側の4番線のホームに停車中の電車にお乗り換えください。繰り返し、お客様にご連絡いたします。…」
 アナウンスに従って、私は4番線に止まっている電車に乗り込んだ。空席は既になかった。
 私はドアの横に立った。
(いやに混んでるなぁ)

 しばらくして車両のドアが閉まり、電車が動き始めた。発車を告げるアナウンスもチャイムもなかった。
(また、ぼけ~っとしてしまった)
 意識の空白のようなものが時々私を訪れる。寝転んで、目をつむり、テレビの音声だけを聞いているうちにふわーと意識が遠くなり、気がつくと5分ほど過ぎていたりする。いましがたもそんな風だったのだろう。

 私はやにわに不安になった。ドア越しに見える景色がいつもと違うのである。見慣れたビルや広告が過ぎ去っていくのだが、私はなぜかそれらに違和感を覚えた。
 違和感は目に入ってくる景色の「光と影」にあった。CGの中のような3次元の世界という感じなのだ。

 なかなか次の駅に着かない。どうやら駅間の距離も普段と違っているようだ。
(乗り間違えたのかなぁ。そんなはずはない。ちゃんとアナウンスに従って4番線の電車に乗ったはずだ。景色だって…)
 電車は停車することなく走り続けていた。
 
 トンネルに入った。車内の照明は点かなかった。トンネルが短いので点灯する必要がないのだろう。カメラのフラッシュがたかれた。面白半分に暗い車内での乗客の表情を撮ったのだろうか。
 短いトンネルをいくつか通過し、電車のスピードが落ちてきた。遠くに山並みが見えてきた。

 しばらくすると電車は呑み込まれるように、ゆっくりと、赤い大理石で建造された駅舎に入っていった。ホームは白い大理石で造られていた。
 電車が静かに停車すると乗客たちがみな降り始めた。どうやらここが終点らしい。私もホームに降り立った。駅名はどこにも出ていなかった。

 人の流れに押されながら私も改札口に向かった。ヨーロッパの駅のように、この駅には改札口というものがなかった。

 駅前の小奇麗な広場に紅白のツートンカラーのバスが数台止まっていた。
 見ると、みなそのバスに乗り込んでいく。押されるようにして、私もそのバスの1台に乗り込んだ。
「このバスの行き先はどこですか?」私は隣の男性に尋ねた。
「さあ、私も知らないんですよ。足がひとりでにこちらに向いてしまって…」
「あの電車にはどこからお乗りになったのですか?」
「電車?…どこからだったか、それがどうもよくわからないんです」
 これ以上この男性に尋ねても無駄のようだった。

 バスが発車した。
 バスはひっそりとした駅前の商店街を抜け、街道筋のような道路を走っていく。次第に人家がまばらになり、周囲は何も植えられていない畑になった。
 電車の車窓から見えた山並みがすぐ近くにある。
 バスはスピードを落とし、右にカーブすると大きな駐車場に入って止まった。
 降車口のドアが開いた。乗客たちに混じって私も降車した。

 人の流れに従って歩いていくと行列が出来ていた。私もその行列に並んだが、なんのための行列なのか見当もつかなかった。行列が進むにつれて、行列の先に梅園があるのがわかった。
 梅園の手前にチケット売り場があった。売り場といっても、即席に造られたバラックのような代物だった。
 チケットの売り場から見える梅園には人影がなかった。入園料を払った人たちがどこにも見えないのが不思議だった。
 私が躊躇していると、後ろから、早く入園料を払えとせっつかされた。 
 ジャケットの内ポケットにいつも入れてある財布が見つからなかった。私はジーンズのポケットから小銭入れを取り出し、コインを数えてみた。どうにか入園料を払えたがなぜかチケットは貰えなかった。

 梅園の前に小さな川が流れていた。その川には、梅の木で作ったような、今にも崩れ落ちそうな華奢な橋が架かっていた。橋の左側に、一人ずつ渡れという注意書きが立っていた。

 橋を渡ると、梅園の光景が一挙に変化した。燦々と輝く光に溢れる梅園の中は人々でごった返していた。梅見と言うよりは人を見ているようなものだった。
 大勢の人が歩いているのに、私は少しも埃っぽさを感じなかった。
 模擬店もいくつか出ていたが、どの店の前にも客がいなかった。高さ2mほどの白梅・紅梅の下に座っている人たちは、酒を酌むでもなく、弁当をつつくわけでもなく、ただ座っているだけだった。

 梅園自体はものの5分も歩けば一回り出来てしまうくらいの広さなのだが、いざ歩きだすと30分かけても廻りきれなかった。
 私は尿意をもよおしてトイレに入った。トイレには誰もいなかった。小用をたそうとしたが一滴も出なかった。手を洗おうとして手洗いの蛇口をひねった。水が出なかった。
「どうなっているんだ?」
 私の独り言を聞きつけて、通りかかった男が言った。
「出口を探すんだな」
「出口?」
 男は私の言葉に振り返りもせずに梅園の光の中に消えていった。


梅まつり-01
梅まつり-01 posted by (C)トロイ


 私は出口を探し始めた。梅林の境に沿って小径を歩いていっても出口のようなところは見つからなかった。
 出口を探すのを諦めかけたとき、紅梅と白梅の幹が交差しているところが私の目に入った。実際には幹と幹が交差するはずはないのだが、私が立っている位置からだと、人ひとりが通れるくらいの三角形のほの暗い空間が私には見えたのだ。
 私は紅梅と白梅の幹が作るその空間の中に入っていった。

 すると、周囲の様子が変わった。
 たしかに私は梅園に立っているのだが、目の前には竹で作った垣根があり、簡単な庭木戸がついていた。
 垣根の向こうは人家が2軒並んでいた。
 庭木戸を開けて、人家の間の細い土の道を行くと、舗装された道路に出た。クルマも通っている。道路を歩きながら何気なく左手の山のほうに目をやると、杉林と昔ながらの萱葺きの民家と紅白の梅園という絵になる光景があった。

 道路の横にある丘から眺めればその光景をさらに楽しめそうな気がして、私は坂道を登って行った。
 丘の斜面にきれいな白梅が咲いていた。そこから麓のほうを見晴らすと、宅地造成によって景観が損なわれてはいるものの、桃源郷ならぬ梅源卿の紅白の色模様が私の目に飛び込んできた。

 存分に景観を楽しんだ後、私は丘を下って行った。不思議な梅園があったところを左に半周するようにして舗装された道を歩いていくと、梅園の入口付近にある駐車場が見えてきた。バス停で時刻表を確認すると、待ち時間が50分ほどあった。
 道路の脇の土手に腰を下ろして、今日あったことを私は振り返ってみた。どうしてこんなところに来てしまったのか、私には分からなかった。
 私は土手に仰向けに寝転んだ。両手の指を組んで枕代わりに頭の下に置き、透き通るような青い空を眺めた。目を瞑ると心地よかった…。

 電車が停止して、駅のアナウンスが耳に入った。ドアの横に立っている私にぶつかりながら、どっと乗客が電車から吐き出されていった。
(S駅…?いけない!降りなくちゃ)
 私は急いでホームに飛び降りた。

 ホームの様子がいつもと違うように感じる。
(ここはほんとうにS駅なのだろうか?)
 出口への上りのエスカレーターに運ばれながら私は不安にかられていた。




追記:

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