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Toy Story

from
from "A.I."-04 posted by (C)トロイ


 ヴォルフ玩具を手にした人は、朝な夕なに自室でひとりその玩具に向かい合って過ごすことが多くなった。わたしも、そのひとりだった。

「ねえ、ヴォルフ。あなた、精神科医になったらどうかしら?」わたしはわたしのヴォルフに語りかけた。
「精神科医ですって!ボクは音楽家ですよ」玩具からヴォルフの声がアリアのように流れてくる。

 優しくて包容力に満ちたその声に、わたしはうっとりしてしまう。

「そんなこと言っても、あなた、音楽では食べていけないじゃない。家賃の支払いさえ滞ったまま汲々としているのに」
「……」
「あなたなら、きっと、精神科医として世界的な権威になれるわ。わたしがペタンと太鼓判を押してあげる」
「そう言われても」
 ヴォルフは戸惑っているようだった。
「あなたは金銭感覚がない、ってみんなに言われているでしょう。使い切れないほどのお金を、あなた、手にしたくはないの?」
「そんな、…。別に金持ちにならなくても…ただ、作曲に没頭できる時間があれば、ボクは…」
「ほら、やっぱり。それにはお金が必要!ねぇ、そうよね。違う?」

 わたしの言葉にヴォルフ玩具は答えなかった。
 マズイことを言ってしまったかなぁ、と思いながらもわたしは言葉を続けた。

「あなたも感じているでしょう、あの左利襟のやっかみとか嫉妬とか…。あんなひと、わたし、だいキライ。あんなの、あなたが精神科医になって、吹き飛ばしてちょうだい。宇宙の彼方に…塵みたいに」
「……」

 黙ってわたしを見つめているヴォルフの視線が変に痛い。

「みんながあなたを羨むわ。左利襟なんか足元にも及ばない名声。キリスト、仏陀、マホメッド…にも劣らないほどの崇拝。それらはみんな、あなたのもの。精神科医の専門知識やノウハウなんか爪の垢ほども要らないのよ。だって、あなたの曲が全てなんですもの。あなたのディヴェルティメントやセレナーデ、ソナタや協奏曲、交響曲に歌劇。それらに優るどんな専門知識やノウハウもこの世にはないの。わたしの身体がそれを知ってしまったわ♪」

 わたしは自分の興奮がどんどんエスカレートしてくるの感じた。

「ボ、ボクの曲が…ですか?!そ、そんな…。ボクは、ボクの頭の中に響く調べを鵞ペンで譜面に記しているだけです」
「左利襟が、なぜ、あなたをあんなに羨むのか、あなた、わからないのね。左利襟は知っているのよ。あなたの音楽は天が与えたものだってことを」
「ボクは神など信じていませんよ」ヴォルフ玩具の口元にわずかな笑みが走った。
「そうねぇ。あなたはあの秘密結社のメンバーですものねぇ」
「……」

 ヴォルフの悲しげなまなざしがわたしの心を射抜いてくる。

「気にしないで、ヴォルフ。秘密結社のことは、あなたが紡ぎ出す魂の音楽とはまったく関係ないの。わたしの心がちょっと不安定なとき、あなたのすべてを受け入れ、あなたの曲に身をゆだねるだけでわたしは癒やされるの。疎ましいことから心が解放されるわ。あなたがもたらす音楽は天上の調べっていうか。あなたはとびきり上等なわたしのお医者さま。わたしは思うの。淡いピンク色のきれいな診療室にあなたの曲を流せば、だれでも、もう、うっとり…。ねぇ、ヴォルフ。いいでしょう?精神科医にトラバーユをして、ね、おねがい」


 ヴォルフ玩具との<こころ>の交歓がいわば出来のよいAIとの<からだ>の擬似快感に過ぎないことに人びとは気がつきはじめた。人を溺れさせるほどに虜にしたヴォルフ玩具は、一部のコアなファンにはなお寵愛されていたが、世間的には次第に見捨てられていった。

 そんなある夜、自らの魂を救済するためのレクイエムを未完のままして、わたしのヴォルフも不可解な最期を遂げた。
 ヴォルフは検死に付されることもなく、当局の手によって、街の外れの共同墓地の一角にある玩具廃棄物処理場の大きな穴の中に投げ捨てられた。


from
from "A.I."-03 posted by (C)トロイ


 霙の降る寒い夕方のことだった。



追記:

*私のHP『夢幻のスペース・オデッセー』↓

   夢幻のスペース・オデッセー

  HPにも来ていただけると嬉しいです。


*心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

   夢幻のOdyssey(オデッセー)

   for BLOG_心象風景

そして、↓

   『for 「575の宙」』

他の画像も見に来ていただけると嬉しいです。


Thank you in advance for your visit.

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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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Re: DVDありがとうございました!

友章さん

どうもありがとうございます。

DVDをおふたりに楽しんでいただけてよかったです。

ブログも見ていただけてとても嬉しいです。
ブログを書いていくうえで大きな励みになります。
どうもありがとう!!

では、友章さん、よい一日を\(^o^)/

DVDありがとうございました!

友章です。
DVDありがとうございましたm(_ _)m
妻と一緒に懐かし話も交えながら、何度もリピート再生を…

おじいちゃん、おばあちゃんを映像で見る事ができ、ちょっぴり涙目になりつつも、とても幸せな気分になれ、妻もファミリーに加われた事を改めて喜んでくれました。
プロフィール

KJYD

Author:KJYD
来てくださったかたがたに、そして『拍手』をしてくださったかたがたに、心から

Alles Gute!

どうもありがとう。


*東京散歩の写真、「心象風景」や「ショートストーリー」そして「575の宙に」などに用いた画像など、『フォト蔵』にアルバムとしてアップしてあります。
よろしくお願いいたします。

Thanks a lot.


お願い:

*フォト蔵の画像保存機能の不具合により、ブログに用いた画像の一部が非表示になってしまうことが度々あります。

 非表示になってしまった全ての画像をフォト蔵で再保存してブログに再表示させても、また、他の画像や同じ画像が非表示になってしまいます(T_T)

 非表示になっている画像がありましたらコメント欄などで教えていただけると有難いです。

 よろしくお願いいたします。

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