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戯作「ジパングの甕」

calling-Zipangu-01
calling-Zipangu-01 posted by (C)トロイ


 龍宮城の象徴として祀り上げられてしまった乙姫が長老の海亀和尚に訊ねた。
「ここ10年余、政の場においては、行政改革、構造改革、と狼煙は上がっていますが、いっこうに海の民の暮らしに明るさが戻ってきてはおらぬようです」
「ご心痛お察し申し上げます。政に携わるものたちになにやら欠けることが多ございまして…」
「欠けるとは、何を申してのことなのです」
「はっ、政に携わるものとしての心持、矜持と申しましょうか、気構えと申しましょうか…それらが、ちと」
「はっきりと申してみなさい」
「金欲、勢力争い、利権がらみの保身、嘘、モラルハザード…民のことを慮っているものが少のうなりまして…民の心は天下の政から離れていくばかり」
「嘆かわしいことです。なにか良い方便はないのですか」
「はっ、宮城の庫裏にございます<ジパングの甕>は如何かと」
「それをどう用いるというのです」
「人の心に棲みついた欲や嘘、無責任さなどの度合いによりまして、甕の中の水の深さが変わるというものでございます。甕を政所の門前に備え置きまして、政に携わるものの心の内をお測りになられては如何かと…」
「甕を見たく思います」
「はっ、直ちに」
 海亀和尚は乙姫に深々と一礼をして退室した。

 まもなく、玉砂利の敷き詰められた庭に<ジパングの甕>が据え置かれた。それは何の変哲もない、フジツボに覆われた灰色の甕だった。
「どうすればよいのです」乙姫は海亀和尚に尋ねた。
「簡単でございます。たとえば己の所持いたすもの、たとえば小銭でもよろしいのでございます。それを甕の中に落とし、それを甕の中より拾い上げられるかどうかを見ればよいのでございます」
「たれかやって見せてくれるものはおりませぬか」
「はっ、お畏れながら某が…」甕の横に控えていたカマスが頭を下げて願い出た。
 カマスは懐から海蛇の皮の財布を取り出し、金貨を甕の中に落とした。カマスは腕まくりをして、甕の中をまさぐった。しかし、いっこうに金貨を拾い上げることが出来なかった。カマスの焦った様子を見て、甕に付着しているフジツボが口を開けて笑っているようだった。侍女たちも必死に笑いを堪えていた。カマスは赤面しながら甕の横に下がった。

「ほかにたれかおりませぬか」
 カマスのことがあったので、進んで名乗り出るものはいなかった。
 この有様を遠くから眺めていたひとりの鯛の少女が甕にかけ寄ると玉砂利のひとつを甕の中にぽちゃりと落とした。少女は甕の淵に両手をかけ、乙姫を見上げながらうれしそうに笑った。楽しい遊びでもしているように笑顔を浮かべて、甕に右手を入れると、あっという間に玉砂利を拾い上げた。周囲にどよめきが走った。

 政所の登院門の前に据え付けられた<ジパングの甕>のうわさはすぐに国中に広まった。
 登院するものは、大勢の海の民が見ている前で、それぞれの胸に煌く金のバッジを甕に入れなくてはならなかった。退院の際に金のバッジを拾い上げられなかったものは、みな、民衆の見守る中を逃げるようにして走り去っていった。金のバッジを手にすることが出来たのはほんの一握りのひとたちだった。

 政に携わる顔ぶれが一新された。「まず民ありき」という当たり前の施策がとられ、龍宮城は再び明るさを取り戻した。
 乙姫は<象徴>も悪くないと思うようになった。

カエルb-03
カエルb-03 posted by (C)トロイ


 庫裏の暗い片隅に<ジパングの甕>が置かれていた。
「わしの出番がないことを祈るのみじゃ」微睡みながら甕はつぶやいた。 
「私たちも眠るとするか…」
 甕に張りついているフジツボがいっせいに口を開けて欠伸をした。



追記:

*私のHP『夢幻のスペース・オデッセー』↓

   夢幻のスペース・オデッセー

  HPにも来ていただけると嬉しいです。


*心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

   夢幻のOdyssey(オデッセー)

   for BLOG_心象風景

そして、↓

   『for 「575の宙」』

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