love~being shut up in an ivory tower~

 今はムカし…、象牙の塔のものがたり…

tower of love_le Rouge et le Noir
tower of love_le Rouge et le Noir posted by (C)トロイ


 父の話には冗談とも本気ともつかないところがあるので真偽は不明です。

 ずいぶん前の話だということですが、「愛」をめぐる学園闘争の時代があったそうです。

 当時、本来自由に開かれているべき「愛」の学び舎は為政者による機動隊の出動という弾圧や文部・愛育省と大学当局者による[飴と鞭]的な管轄の下にあり、一部の心ある学生たちは与えられた<愛>という不毛の世界に踏み迷っていました。しかし、ほとんどの学生はその状況に対して特に疑念も抱かずにいたそうです。
 それは、与えられた<愛>に対する疑念は若い頃には誰にでもあるいわば麻疹(はしか)みたいな一過性のものであるという通説が主流を占めていたからです。
 敷かれた<愛>のレールの上を走っていけば何ごともなくて済むと考えている学生たちはノンポリを決め込み、与えられた世界の範囲内で将来に向けてのbetterの<愛>の選択ができれば、それで良かったのです。

 そんな時代の流れの中で、ごく一部の大学のきわめて少数派の学生たちが、「愛」を真摯に問いかけるラディカルな学生運動を繰り広げており、彼らが読みこんでいた「愛」についてのバイブル的存在のひとつが、かつて若い人たちに読まれていた女性ベストセラー作家アナナスの父親リュウメイの著作だったそうです。

 いま、私たちは彼の著作をペーパーバックで読むことができますが、父に言わせると、それは、かつてのヘビーでハードな時代からライトな趣味的・ファッション的価値判断が幅を利かす時代になったこと、他者への表層的なポーズとかパフォーマンスが好んで受け入れられる時代に変わってしまったことのひとつの表れなんだそうです。
 当時の彼の著作を、現在ではすでに「愛」をめぐる闘争のためのバイブル的存在ではなくなったと出版社が判断していることも背景にあるようです。
 読者の多くは彼の著作を自己満足の一端として、知的なファッションとして、あるいはインテリを自認しているひとたちにとってのいわば通行証として読むだけなので、彼の著作は国家権力との闘いの思想的バックボーンとしてはもはや機能しえない情況になっているのだそうです。
 為政者にとって、彼のイデオロギーはもはや脅威ではなくなったわけです。

 父の言葉を借りれば、インテリを自称する思想家や評論家たちが、当時の政治的状況や思想的状況あるいは文学的状況についてあれこれ言っても、権力というものによって圧殺された「愛」の危機的な状況の真っ只中で物理的にも精神的にも血みどろになって闘っていた学生たちから見れば、彼らはアパシーに過ぎないと言われれても仕方がなかったようです。

 大学を覆っていた権力による「開かれた自由な愛」への弾圧の恐怖と学園側の懐柔策の下で闘いをつづけることは、大学という社会への門からのお墨付きのついた保証された<愛>を享受できなくなるばかりか学園からの追放処分や一般企業への就職が不可能になるという将来への不安という切符を社会的に切られることにつながります。
 こうして、「愛」の学園闘争に参加していた学生たちも次第に沈黙し、闘いから脱落していったそうです。

 父によると、そんな過酷な状況の中でも、最後まで最前線に立って闘っていたT経済大の学生たちの価値判断や人間性をナマのまま引っ張り出してフィルムに定着させたドキュメンタリーがあったそうです。父はそれを見たとき、自分の青春はなんだったのかと考えてしまったそうです。


圧殺の森-02
圧殺の森-02 posted by (C)トロイ


 父の話を聞きながら、私は、ジョジョ・レンノンとヨッコ・オノンが紐育のMスクエァ・ガーデンのステージの上で白いヘルメットを被り、白いタオルのマスクをし、角材を手にして、観客に<愛>の闘争のアピールをしているライブのビデオを見たことを思い出しました。
 父にそのことを話すと、当時の学生運動で、ヘルメットをかぶり、タオルのマスクをして顔を隠したのは、機動隊の容赦ない警棒の嵐から身を(頭を)守るためのヘルメットであり、催涙ガスを直接吸い込まないためのマスクはデモなどの闘争中に写真を撮られたとしても、官憲がその人物を特定できないからだそうです。当時は闘争現場の顔写真が証拠となって、検挙された学生も多かったようです。
 父によれば、ジョジョもヨッコも、本来あるべき「愛」を勝ちとるために国家権力との厳しい闘いの中に実際に身を置いたことがないのだろうとのことです。だから、ステージであの格好をして<愛>をめぐる闘いを観客に向かって語っていられるのだそうです。
父から見れば、ふたりの思いつきの浅さやパフォーマンス的なポーズがそこに出ているだけのようです。


圧殺の森-03
圧殺の森-03 posted by (C)トロイ


 父と話をしていて、私はT経済大学の学園闘争を描いたドキュメンタリーフィルム「Assatsu No Mori」を見たくなりました。
「バカだな、おまえ。『愛』をめぐる学園闘争の時代なんかとうの昔の話だぞ。いま見ることができたとしても、『愛』の浦島太郎になるだけじゃないか。時代は変わってしまったんだよ」
 父は微笑みながら私の目をのぞきこんだ。
(そうだろうか?)
 それでも、いや、だからこそ、私は見てみたい。
 表面的には<自由>な<愛>の時代であると言われているいまだからこそ、見てみたいのです。


圧殺の森-04
圧殺の森-04 posted by (C)トロイ



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