夢のかたち~淨らかな夜~

 空も街も暗かった。

 地下鉄の終電車に乗り遅れてしまった私は深夜バスのバス停まで歩いていた。
 古いレンガ造りの建物の間を寒風が吹き抜けていく。捨てられていた新聞紙が立ち上がり、踊るようにして街路から舞い上がっていった。

 人通りの途絶えた大都市の真っ暗な空から白いものが舞い降りてきた。

 私はジャケットの襟を立て、両手をジーンズのポケットにしまい込み、肩をすぼめて歩いた。私の一歩一歩に、ひとりなんだという実感が靴底から伝わってきた。
 私は口笛を吹いた。口笛はかすれて、思うような音にならなかった。その音は震撼としたレンガ造りの建物の景観と妙にマッチしていた。

 バス停の見える道に出た。
 人影はなかった。この時間ならいつもはバスを待っている人が2、3人はいるのに、今夜に限ってひとりも見当たらない。タクシーも通らなかった。
 なにか変だと思いながら私はバスが来るのを待った。

 道路が白くなり始めても、バスの来る気配はいっこうになかった。相変わらず人影もなく、バスもこないし、タクシーも通らない。
 終電車を逃したことが今更ながら悔やまれた。

 このままではどうしようもない。立っていると、足元から身体が冷えてくるだけだ。
 私はフラットまで、バスの運行経路をたどって帰ることにした。
 途中で深夜バスに乗れればめっけものだ。

 テンプ河沿いの道を私は歩き始めた。川上にある最初の橋に向かって…。

 河は静かに深く眠っていた。雪がその眠りを包み込むようにして水面に舞い降りては消えていった。
 対岸の街並みが雪のベールを通してぼんやりと見える。その光景は古いモノクロームの映画のワン・シーンように憂愁を帯びていた。

 テンプ河に架かるツヴィッシェン橋のところまで来た。
 橋は白く粧われていて、クルマのタイヤの跡も靴跡もなかった。その橋を渡りながら、私は見知らぬ処女地に足を踏み入れていくような感じがした。

 長い橋の中ほどで川下を見ると、高い時計台とそれに連なる議事堂や大寺院がぼ~っと翳んでいた。

幻想都市-02
幻想都市-02 posted by (C)トロイ

 雪景色の中で影絵のように鎮静している歴史的建造物が実際の距離よりもずっと遠くにあるように私には思えた。

 私は対岸に向かってまた歩き始めた。だが、いくら歩いていっても対岸に行き着けなかった。
 そんなバカなと思いながら、私は橋を戻ってみた。

 雪はそんなに激しく降っているとは思えないのに、すでに私の靴跡が消えている。
 橋を戻っていっても、私は河岸に辿り着けなかった。私は橋の上を行き来してみた。しかし結果は同じだった。

 (いったい、なんでこんなことに???)
 雪の中で気持ちばかりが焦ってくる。

 どういうわけなのか、歩くそばから私の靴跡は消えていく。橋の上をどこまで行っても雪に粧われたている橋を渡りきることができない。

 雪のツヴィッシェン橋の上で私は茫然と佇んでしまった。

 私は欄干からテンプ河の暗い川面を見つめた。舞い落ちていく雪が私に呼びかけてくる。

    「心地いいわよ。あなたも、こちらにいらっしゃい」

 川下から「Silent night」のコーラスが聴こえてくる。

 やがて、私の視界が滲むようにしてゆっくりと崩れていった。

 …意識の奥底で、夜明けを告げる大寺院の鐘の音が鳴り響いている。


幻想都市-01
幻想都市-01 posted by (C)トロイ



追記:

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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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Re: No title

トロちゃんさん

いつもコメントをどうもありがとうございます。

夢中で読んでいただいてたいへん嬉しいです。

主人公は、雪の中で現実を離れた世界に入っていってしまいますよね。まるで夢の中の世界のように。

橋を挟んでのふたつの世界のどちらにも行きつけずに、浄らかな夜につつまれて次第に意識が遠のいていく状況は、考えようによっては、トロちゃんさんのお感じになったように怖いものがありますよね。

No title

怖いが夢中で読んだかな?!
幻想的で、夢の中にいるような?
     恐ろしいかな?
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