夢のかたち~Kaleidoscope~

 左右対称的に並んでいるお椀型の二つの丘の彼方に珍しい鍾乳洞があると聞き、私は行ってみたくなった。
 その鍾乳洞に行き着くには、双六のように定まった道順があるということなので、それに従って、私はまず左の丘の方へ歩きはじめた。
 螺旋を描くように丘を廻りながら小径を上っていくと、青みを帯びた白い山桜の花が周囲の景色を引き締めていて清々しかった。春の息吹を醸しだす景観を楽しみながら、私はゆっくりと小径を登って行った。
 鶯も鳴いている。ときおり歩を休めては、私は木々の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。肺の隅々までその香が行きわたって気持ちが良い。通常よりも早く打っている心拍数も、新しい鍾乳洞を見られるという楽しみへの序章のリズムに思えてくる。
 丘の頂に由緒ありげな歌碑があった。
 刻まれた文字は残念ながら読み取れなかった。この丘に縁のある歌人のものに違いない。
 鍾乳洞があると聞いた方向を眺めると、なだらかなスロープをなしながら緑野が広がっている。
 ひとしきり頂上からの景観を楽しんだ後、私はもう一つの右の丘を目指して小径を下っていった。

 二つの丘は遠景ばかりでなく、小径の周囲の景観もよく似ていた。もちろん細部を見れば違いはある。
景観が似ていると、人の行動も同じようになってしまうのだろうか。
 左の丘を上っていったときのように、私は周囲の景観や木々の香りを楽しみながら、心拍が作り出すリズムに期待を倍加させていった。
 頂上に着いた。ここにも同じような歌碑があった。左の丘の歌碑よりは心持大きいような気がした。歌碑に刻まれた文字はやはり読み取れなかった。
 しばらく頂上からの景観を楽しんだ後、私はサインボードに従って、緑野の方に下っていった。

 丘を下ると、白や黄や青やピンクといった様々な花々の色が競演する広大な原野だった。
 こどものように心を弾ませながら、私は花の咲き乱れる野を進んで行った。揚げ雲雀が私の心のリズムを高めてくれる。
 途中に隕石の跡のような窪地があった。小さな火山の噴火口のようにも見える。そんな風に感じると、足元が上下に揺らいでいるような気がしてくるから、人の感覚というものは不思議だと思う。

 やがて、鍾乳洞のある断崖の上に広がる黒い森が遠くに見えてきた。森と言っても屋敷杜程度の大きさなのだが、いかにも何かを秘めているという感じがする。
 黒い森を通り抜けると断崖の上に出た。

 足場を慎重に選びながら、険しい断崖を私は一歩一歩降りていった。
 断崖の中ほどから下に向かって蛇のような亀裂があり、そこからかすかに湧き出している清水が岩肌の表面を濡らすように光りながら流れていく。
 その下が鍾乳洞の入口だ。

 崖を降りると、私は岩清水の滴りに口を当ててみた。
 岩清水はさらさらしていながら、いくぶん糸を引くような感じだった。渇きを覚えはじめていた私の口の中に、鉱物質の味とは一味違う独特の甘酸っぱい風味が広がった。
 これが身も心も痺れるような醍醐の味というものなのだろうか。
 
 一息つきながら周りを見ると、鍾乳洞の崖を彩る淡いピンクの桜の花が息づいているように美しかった。
 花明りにつつまれながら、鍾乳洞の暗い入口が私を待っている。
 灰色の脳細胞が私に指令を送り続けてくる。

  Come to me.
  Come to me.

 地下水と石灰岩の織りなす夢幻の世界へ私は入っていった。
 鍾乳洞の天井からあるいは鍾乳石の先端から落下する水滴が奏でるグラスミュージックのような調べが洞内に長く尾を引きながら木霊する。
 水琴窟のような調べの響きに乗って、どこからか、ローレライの歌声が木霊してくる…そんな感じだった。

 歌声に呼応するかのように鍾乳洞がリズムを取っている。ギャロップからトロットに、トロットからギャロップに。
 私は、あっと言う間に、渦巻くような<歓喜の歌>のブラックホールに呑み込まれていった。

 私の灰色の脳細胞が、カライドスコープのように、さまざまの色模様を描いていく。
 
  まわって、まわって、まわって、まわって…


Let's get together!
Let's get together! posted by (C)トロイ


  ……どこまでも…いつまでも……

     ……いつまでも…どこまでも……



蛇足かもしれませんが、こんな記事も書いています。↓

 花のKaleidoscope(カライドスコープ)

また、
Kaleidoscopeに興味のあるかたにはこんな映像がU-tubeにあります。↓

 The Splendor of Color Kaleidoscope Video v1.1



追記:

*私のHP『夢幻のスペース・オデッセー』↓。

   夢幻のスペース・オデッセー

  HPにも来ていただけると嬉しいです。


*心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

   夢幻のOdyssey(オデッセー)

   for BLOG_心象風景

そして、↓

   『for 「575の宙」』

他の画像も見に来ていただけると嬉しいです。


Thank you in advance for your visit.
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

KJYD

Author:KJYD
来てくださったかたがたに、そして『拍手』をしてくださったかたがたに、心から

Alles Gute!

どうもありがとう。


*東京散歩の写真、「心象風景」や「ショートストーリー」そして「575の宙に」などに用いた画像など、『フォト蔵』にアルバムとしてアップしてあります。
よろしくお願いいたします。

Thanks a lot.


お願い:

*フォト蔵の画像保存機能の不具合により、ブログに用いた画像の一部が非表示になってしまうことが度々あります。

 非表示になってしまった全ての画像をフォト蔵で再保存してブログに再表示させても、また、他の画像や同じ画像が非表示になってしまいます(T_T)

 非表示になっている画像がありましたらコメント欄などで教えていただけると有難いです。

 よろしくお願いいたします。

最新記事
カテゴリ
最新コメント
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
月別アーカイブ
リンク
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる