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夢のかたち~寂しい花~

 冬。
 窓の外を眺めると、山水画のように岩がむき出しになっている崖の上で白い梟が嗤っている。
 ペチカの燃えている室内では自動演奏ピアノがエリック・サティの「三つのジムノペディ」の第一番を奏で始めた。

  「ジムノペディ」第一番
 
 余計なものをそぎ落としたシンプルなメロディがもたらす心模様。孤独な魂を引きずるような旋律に込められた憂いと哀愁を帯びた優しさ。緊張感にも似た独特の繊細さ。

 親しみやすい曲の深部に眠っている暗さに私の精神が染まり始めると部屋の空気が死んだように重くなってきた。
(やばいなぁ)
 私がそう感じたのを察知したかのようにピアノの自動演奏がピタリと止んだ。

 脳の金縛り状態が解けて弛緩した私の頭の隅で、シューマンの「予言の鳥」が囁きかける。
「寂しい花を見たことがありますか。さぁ、森に出かけて…」
(そんなもの探してなんになるのだろう)
「さぁ、出かけましょう。寂しい花があなたを待っていますよ」
 予言の鳥の歌声に誘われて、私は夢遊病者のように家を出た。


 森。
 全ての音が深々とした寒さに凍りつき、森は灰色の<死>の世界に封じ込められてしまったかのようだった。

 しばらく歩いていくと、どこかで梢の折れる音がした。その瞬間、凍てついたガラスのような森の空気にひびが入り、血なまぐさい獣の臭いがしてきた。私は思わず立ち竦んでしまった。


 遠くに狩猟用の古い櫓が見える。

森の櫓
森の櫓 posted by (C)トロイ

 私は櫓に登ってみたくなった。

 いざ登ってみると、櫓は思いのほか高かった。

 櫓の上から眺める森の情景は寂しさに満ちていた。真っ直ぐな小径が眼下の沈んだ森の中に吸い込まれて行くように伸びている。

 森は静まり返っていた。

 猟師は音のない世界で、沈黙し、寒さと孤独に絶えながら獲物を待ち受ける。そして、生ぬるく、生臭い赤い血をその代償にして、猟師は櫓を下りていくのだろう。

 死せる魂の重さを感じながら、私は櫓の梯子を下りていった。梯子が獲物の断末魔のように軋んだ。

(森には、人それぞれが好む一隅があるものだ。<寂しい花>もそんな一角に咲いているのに違いない)


 小径を外れてしばらく行くと、森の一角に不自然に盛り上がっているところがあった。その黝い一角は時には赭く色を変化させ、さらには黄を混ぜながらうごめき、盛り上がり、黒っぽい樹々を吐き出そうとしていた。
 私の立っているところが揺れてくる。
 私は眩暈を覚えた。必死に三半規管をリカバリーしながら、遠くを見ると、樹間の向こうが開けているのがわかった。草地だろうか。伐採地なのだろうか。


 ヒース。
 向かい風の寒風の吹きすさぶ荒地に、淡いヒース色に染まった「王と王妃」の座像が建っていた。

from Henry Moore_「王と王妃」の像-01
from Henry Moore_「王と王妃」の像-01 posted by (C)トロイ

 王と王妃のまなざしは<愛>と<孤独>と<悲しみ>に満ちていた。

(誰が、何のために、こんな所にコレを?)
 
 王と王妃に促されでもしたかのように、私は彫像の反対側に回ってみた。

 なんと、私を取り囲む風景が一変した。
 座像を正面から見たていたときとは全く違う、"夜"かと錯覚してしまいそうな深いblueの世界がそこにあった。

from Henry Moore_「王と王妃」の像-02
from Henry Moore_「王と王妃」の像-02 posted by (C)トロイ


 彫像の正面に戻ると、王妃の足元の岩石の台座と草地の境目に、寒風に耐えながら一輪の花が咲いていた。

さみしい花-02
さみしい花-02 posted by (C)トロイ

(これだ!これが、さみしい花なんだ!)

 屈んでその花に触れようとした私は、思わず、その手を引っ込めた。


 "さみしい花"は私の容貌(かお)をしていた。



追記:

*私のHP『夢幻のスペース・オデッセー』に載せたものを少し手直ししました。

   夢幻のスペース・オデッセー

  HPにも来ていただけると嬉しいです。


*心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

   夢幻のOdyssey(オデッセー)

   for BLOG_心象風景

他の画像も見に来ていただけると嬉しいです。

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