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象の毛のブレスレット

milky way-05
milky way-05 posted by (C)トロイ

 さすがに北極圏の近くだ。夏だというのに降りしきる雨は冷たく、濡れた足元から寒気が襲ってくる。
 クルマはたまに通るだけ。右の拳に親指を立ててヒッチの合図を送っても止まってくれやしない。そりゃぁ、そうだろう。運転している側からすれば、雨に打たれて長髪はグショグショ、身に着けているものはヨレヨレのオレを見れば、同情心より警戒心あるいは猜疑心のほうが先に立つに決まっている。

 雨はますます烈しくなり、オレはずぶ濡れ状態のドブネズミといったところだ。寒さは骨にまで達してきた。
「やばい、このままじゃ、ぶっ倒れてしまう」
 珍しくオレは弱気になった。オレは大声で歌い始めた。どうせ、誰も聴いてやしない。

   Que sera, sera
   Whatever will be, will be
   The future's not ours to see
   Que sera, sera
   What will be, will be

 しばらくして、雨で煙る道の先に黄色いヘッドライトが見えた。神に祈るような気持ちで、オレはヒッチの合図をした。白いVWだった。VWはオレを無視して通り過ぎていった。
「ダメか」と諦めたとき、クラクションが2回鳴った。
 100㍍ほど先にVWが止まってくれている。オレを待っている赤いテールランプ。オレはVWに駆けよった。
「ありがとう、助かりました。A市まで行きたいのですが」と窓越しにオレは丁寧に言った。
 クルマの中の男が、右手で「乗れ!」と合図をし、身体を伸ばしてドアを開けてくれた。

 暖房の入ったクルマの中は汚かった。床には菓子類の包装紙が丸められて散らかっていた。車内の空気も淀んでいる感じだった。それでも、先ほどまで雨に中で凍えていたことを考えれば、オレにとっては天国だった。

 男は70年代前半のヒッピーを思わす風体だった。肩まで垂らした薄い金色の髪、口の周りのひげがあごひげにつながっている。ジーザス・クライスト・スーパースターに出てきたような黄色のサングラス。汚れてはいたが、赤や青や黄で刺繍の施されたインド綿の軽そうな白いシャツ。渦巻き模様の刺繍がしてある、はき古したブルージーンズ。

 男は「勝手にしやがれ」のジャン・ポール・ベルモント風に口の左端に手巻きのタバコをくわえ、舌でタバコを右に動かしながら、オレに聞いてきた。
「寒かったろぅ。やるか?」と言って、男はウオッカのビンを右手で差し出した。
「いや、ありがとう」とオレ。
「じゃ、喫うか?こいつはイケルぜ」
 雑に手巻きをされた、いかにもといった感じの "a cigarette made by rolling tobacco by hand"!
 オレは「ヤバイ」と思った。のっけからのこの"やりとり"になにか引っかかるものを感じた。
「なにか、音楽をかけてくれませんか」 
 オレは話題を変えたかった。
「ああ」と言って、男はビートルズの「LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS」をかけた。
 "hashish"といいこの曲といい、状況はますますマズクなるいっぽうだ。男の思惑がオレには読めない。

 男は運転しながらオレの指先をチラッ、チラッと見ている。男が言った。
「ちょっと悪いが腕を見せてくれ」
 オレは疑われているのがわかった。なにがって、それはアレさ、ほれ、映画のシーンによくあるじゃないか。
 オレは口が重たくなってしまった。黙り込んでいると変に思われるかもしれないので、オレはビートルズの曲について話してかけてみた。男はビートルズよりもローリングストーンズのほうが好きなようだった。

 なんとか話を繋げながら、小一時間ほど走ったとき、
「ちょっと寄るところがあるので、つき合ってくれ」
 そう言うと男はハンドルを左に切った。クルマはなだらかな丘を上っていった。丘のうえに灰色の建物が見える。
 建物の正面にクルマを止めると、男はオレに降りろと促した。

 建物の中に入ると、男たちがオレをじろりと見た。まったくもってイヤな感じだ。
 こっちだ!と男がオレに合図をした。オレは男に従って階段を上り、2階のいちばん奥の部屋に入った。がらんとした部屋だった。
(なんに使う部屋なんだろう?)
 オレは部屋を見回していた。
「パスポート」と声がした。
 オレが差し出したパスポートのページをめくりながら、男はチラリチラリとオレの目を見た。
「Komm!」と男が右の人差し指でオレを招いた。
 男は「使用中」の名札が出ている部屋の鍵を開けると、オレに入れと促した。部屋に入ると、オレの背後でドアの鍵がかけられた音がした。
 所持品のチェックもなかったし、身に着けているものの検査をされたわけでもないからたいしたことはないだろうと思いつつも、やはり不安が過ぎった。

 部屋の中には黒人がひとり、窓際の椅子に腰をかけていた。彼と目が合った。オレは軽く会釈をした。彼は椅子から立ち上がると両手を広げてオレに近づき、オレを強く抱きしめた。そして耳元にささやくように言った。
「マイ・フレンド、よく来てくれた。君にあげたいものがある」
 何がなんだか、オレにはサッパリわからない。
 彼は挨拶のハグ(hug)の腕を解くと、左手首から黒くて細い針金のようなブレスレットをはずした。
「これをつけろよ。幸運のお守りだ。なんたって、伝説になるくらい長生きした巨象の毛なんだぜ」
 彼は左目でウィンクするとオレにそれを手渡した。
「そんな、もらうわけにはいかないよ。もらう理由もないし」とブレスレットを返そうとした。
「ここで会えたのがラッキーっていうもんだ。なにも言わずにとっておけよ」
 彼は右手を上げて制止の仕草をしてから、彼が座っていた椅子のところに戻ってしまった。部屋の中に沈黙の錘が垂れてきた。

 夜になった。といっても外はまだ明るい。どうやら雨はあがったようだ。
 ドアが開いて制服の男が黒人に来いと促した。黒人は部屋から出て行った。部屋のドアが閉まる瞬間、黒人が言った。
「銀河で会おうぜ!マイ・フレンド。」
(銀河で会う?)
 オレにはそれが何を意味しているのか見当もつかなかった。
 しばらくして、オレをここに連れてきたヒッピー風の男があらわれた。
「ツイてるな。帰れるぞ。A市まで送ってやる」
 オレは象の毛のブレスレットを左手にはめてみた。

 オレはパスポートを受け取ると、男といっしょに建物の外に出た。
 クルマが走り出した。車内はあの状態のままだ。
 オレは黒人のことを尋ねてみた。
「ニガー?」
「ええ、私が入れられていた、使用中の札がかかっていた…あなたが鍵をかけたあの部屋にいた人です」
 男は怪訝な顔をした。

 しばらく沈黙が流れた。

 男はオレに気を使ってか、それともその話題には触れたくないからなのか、A市に着くまで映画や音楽あるいはイタリア旅行のことなどをひとりで話し続けた。

 A市のセントラムで私はクルマを降りた。
 白夜の街をトラムが走っている。人々が歩いている。

 雨の名残りをとどめている街角にたたずみながら、オレは黒人の言ったことが気になってしかたがなかった。
  「銀河で会おうぜ!マイ・フレンド」
 オレは幻影を見たのだろうか。でも、ブレスレットはここにある。

 昏くなり始めた空を見上げると、ひときわ美しいミルキー・ウェイがかかっている。なぜか黒人がそこからオレを見ているような気がしてならなかった。


 お守りの象の毛のブレスレットは銀河によく似合う、とオレは思っている。いまでも、とくに冴え冴えとした冬の "milky way" を眺めると、あの日のことを思い出す。



spiritual domain(B)-03
spiritual domain(B)-03 posted by (C)トロイ




追記:

*私のHP『夢幻のスペース・オデッセー』に載せたものを手直ししました。

   夢幻のスペース・オデッセー

HPにも来ていただけると嬉しいです。


*心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

   夢幻のOdyssey(オデッセー)

   for BLOG_心象風景

他の画像も見に来ていただけると嬉しいです。

Thank you!
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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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Re: No title

トロちゃんさん

いつもコメントをどうもありがとうございます。

このストーリーのモチーフはかつてノルウェーで経験したとことが基になっています。

ヒッチハイクをしていて、ヒッピー然としたその筋の取締官のクルマにピックアップされるとは夢にも思いませんでした(笑)
こんな経験をした日本人のヒッチハイカーは少ないのではないでしょうか。

当時、象の毛のブレスレットのことを知っていた日本人も少なかったと思います。
いまは、ネットで通販されていますね。

No title

思わ一期に読み終わっていました!

外国の通りすがりの物語のような?
パスポートが出て・・
黒人が出て着たり~

『像の毛のブレスレット』
お守りでしたね!
     素敵 ^^) _旦~
プロフィール

KJYD

Author:KJYD
来てくださったかたがたに、そして『拍手』をしてくださったかたがたに、心から

Alles Gute!

どうもありがとう。


*東京散歩の写真、「心象風景」や「ショートストーリー」そして「575の宙に」などに用いた画像など、『フォト蔵』にアルバムとしてアップしてあります。
よろしくお願いいたします。

Thanks a lot.


お願い:

*フォト蔵の画像保存機能の不具合により、ブログに用いた画像の一部が非表示になってしまうことが度々あります。

 非表示になってしまった全ての画像をフォト蔵で再保存してブログに再表示させても、また、他の画像や同じ画像が非表示になってしまいます(T_T)

 非表示になっている画像がありましたらコメント欄などで教えていただけると有難いです。

 よろしくお願いいたします。

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