太陽そして砂嵐とオアシス

 時季にもよるが、砂漠にある禿山が連なる丘陵の稜線からゆっくりと昇ってくる太陽は大きい。日本で目にする太陽の大きさの数倍はある。
 地理的条件や時季的条件と時間的条件そして気象条件が違うと、太陽の大きさそして太陽のもっている象徴的雰囲気がこんなにも違って見えることに驚くとともに、一種の感動さえ覚えた。

 情況と景観は違うが、『遠き山に日は落ちて』に込められたドボルザークの思いや想いの一端に私も触れることができたような気がする。


 個人的な感覚になるが、サウジアラビヤに来てから、ベートーベンの『歓喜の歌』が砂漠の青空に実によく似合うのに気がついた。

 金曜日、私は泳げもしないのに、プールに行く。

 プールサイドでデッキ・チェアに身をゆだね、砂漠の深い青空の下で燦々と降りそそぐ光のシャワーを浴びながら、眼をつむり心を開放してヘッドホーンステレオから流れてくるベートーベンの『歓喜の歌』を聴いていると、天使たちの合唱が天上から舞い降りてきて私を包み込んでくれる。
 ラヴェルの「水の戯れ」もプールサイドでいつも聴いていた。この曲も砂漠という環境で聴くと、日本で聴いていたのとは違う表情をみせてくれる。
 
 そんな話を運転手に話したら、
 石油コンビナート・サイトからそう遠くないところにオアシスがありますよ。行ってみますか?、と運転手。
 私はオアシスで「歓喜の歌」を聴いてみたくなり、運転手にそのオアシスに行ってもらうことにした。

 クルマは、対向車がほとんど来ない炎天下の砂漠の道をひた走る。
 途中で、砂漠に放置されたままになっている一頭の駱駝の屍骸があった。死んだ駱駝をブルドーザーで運ぼうとしているところを目にしたこともある。

camels in SAUDI ARABIA
camels in SAUDI ARABIA posted by (C)トロイ

 駱駝と言えば、私たちの前を一頭の駱駝を荷台に乗せたトラックが走っていたことがある。
 駱駝は後ろ向きに載せられていて、私たちのクルマがトラックの間近まで近づくと、その駱駝が私たちに向かって頑丈そうな歯をむき出しにして笑うような仕草をする。トラックから少し離れて、また近づくと、また駱駝が同じ仕草をする。運転手が面白がって、トラックに近づいたり離れたり…。

 駱駝にしてみれば、私たちに近づくなと警告をしていたのだろう。
 ラクダは危険だからむやみに近づくなと言われたことを思い出す。


 真っ直ぐな道の前方に、砂塵が舞い上がり茶色っぽくなっているのが見える。
 砂嵐だ。やばい。

 周囲がにわかに暗くなり、無数の砂のつぶてが容赦なくフロントガラスを叩きながらハジケ飛んでいく。運転手がヘッドライトを点灯しても、ほんの数メートル先しか見えない。道は砂嵐の胎内にすっぽりと呑み込まれてしまった。

 運転手はスピードをデッド・スローに落としはしたが、クルマを止める気はまったくない。道から逸れたりしたら、ラクダしか歩くことができない砂の世界にクルマごと捉まってしまうというのにだ。
 クルマを運転するものからすれば、砂嵐の中でクルマを止めることではるかにヤバイ事態になるのは避けたかったのだろう。

 運転手は胸がハンドルにつくほど身体をフロントガラスに近づけ、前方を覗き込むようにして、道の真ん中から逸れないようにクルマを走らせていく。「走らせる」というより、「動かしていく」と言ったほうが感覚的には正しいだろう。
 クルマが道路から逸れないこと、対向車が来ないことを私は祈るしかなかった。


 パッと、視界が開けた。砂嵐を通り抜けたというよりは砂嵐のほうが通り過ぎてくれたといった感じだった。
 ほんの数分のことであったが、ここでは砂嵐が主役であることをあらためて思い知らされた。

 街へと続く道を右側にそれてしばらく行くと、クルマは砂漠の中にある窪地に入った。窪地といってもケタが違う。幅が数百メートル。長さは見当もつかない。
 
「これ、河ですよ。雨が降るとここは通れなくなる」と運転手。
 そう言えば、そんな砂漠の河の写真をどこかで見た覚えがある。もしかしたら、映像だったかもしれないが…。

砂漠_心象-02砂漠の河
砂漠_心象-02砂漠の河 posted by (C)トロイ


 窪地を抜けると、黒い幹だけを残したナツメヤシの樹がところどころに見える。まるで灼熱の太陽にじりじりと焼かれたかのような感じである。かつてのオアシスの名残りなのだろう。

 やがて前方に緑の塊が見えてきた。オアシスだ。

 オアシスは、大きいとは言えなかった。それでも、オアシスの中に身を入れると、空気そのものが砂漠とはまったく違っているのがわかる。
 空気がやわらかくて、気持ちいい。もちろん、温度も違う。木陰でまどろむ人たち。私も寝転がってみた。

oasis-01c
oasis-01c posted by (C)トロイ
 
 パラダイス…。
 緑と水の有難味が実感できる。

 目を瞑ると心地よい静寂の時間が流れていく。
  
 オアシスで「歓喜の歌」を聴きたいと思ったのは野暮だった。愚の骨頂だった。
 言葉の使い方がおかしいと笑われそうだが、オアシスは "silence is gold" の世界なのだ。
 

 オアシスから、赤茶けた小高い山の連なりが見える。その裾野を砂嵐の砂塵がゆっくりと舞い上がり、山肌を流れるように覆っていく。

 青空から響いてくる「歓喜の歌」を巻き込みながら。




追記:

心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

  夢幻のOdyssey(オデッセー)

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他の画像も見に来ていただけると嬉しいです。

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Re: No title

記事を読んでいただきどうもありがとうございます。

仰るように、以前、ブログだったかフォト蔵であったかわからないのですが、
この記事の他に沙漠の郵便局の話や公開処刑(中止になった)のエピソードの記事のURLも、コメントのレスでの参考として貼らしていただいたことがあります。

貴重なお時間を費やさせてしまい、申し訳ございません(>_<)

No title

トロイ様
この画像みたようにも?
砂嵐のことが良く書いてありました!
     記憶が薄くごめんなさい~
プロフィール

KJYD

Author:KJYD
来てくださったかたがたに、そして『拍手』をしてくださったかたがたに、心から

Alles Gute!

どうもありがとう。


*東京散歩の写真、「心象風景」や「ショートストーリー」そして「575の宙に」などに用いた画像など、『フォト蔵』にアルバムとしてアップしてあります。
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 よろしくお願いいたします。

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