トロイメライ

infinite border-03
infinite border-03 posted by (C)トロイ

 コーマの母の耳元に「おふくろ、また、来るね」と言って、私は老人病院を出た。
  一歩外に出ると、ビルの谷間の大通りを寒風が吹き抜けていく。

 寒さに身を縮こまらせながら、いらいらしてバスが来るのを待つのはどうも私の性に合わない。
(歩くか)
 バス通りを歩いていけば適当な停留所でバスに乗れるのだが、ふら~っと裏道に入って住宅街に歩を進めてしまうことが私にはよくある。 
 今日もそうだった。

 住宅街はビル街に比べるとそれほど寒さを感じない。
 日当たりのよい家の庭ではもう梅が咲いている。
 何かを主張するかのように、空に向かってパカッと蕊を開いている梅の花。その蕊の姿に、私はなぜか女性のもつ芯の強さを連想してしまう。

 この時季、私の住んでいるところもでもそうなのだが、各町内の掲示板にひときわ目立つ黒い枠で囲われた「お知らせ」を眼にすることが多い。
 逝去の掲示にはなにか磁場でもあるのだろうか。一つの「お知らせ」に吸い寄せられたかのように黒枠の紙片が並んでいる掲示板もある。
(母も長くないのかも…)
 ややもすると、私はそんな暗い想念に重く包み込まれてしまう。

 どこからかピアノの調べがかすかに流れてきた。
(トロイメライ!)
 春の兆しを告げる梅の香に乗ってくるピアノの調べに私はそっとハミングをした。

 私の脳裏に年老いたピアニストの顔が浮かんだ。

 1986年の春…
 61年ぶりに故国を訪れた老ピアニストの演奏に目をつむってじっと聴き入る聴衆たち。
 バルコニーに肘を置き、身を乗り出すようにして聴いている女性。頬杖をし、何かに想いを馳せている男性。軍服姿の男性も感慨深げに演奏に耳を傾けている。立ち見で聴いている大勢の人たち…。
 鳴り止まぬ拍手に応えて、アンコールの「トロイメライ」が静かに始まった。
 ホールは水を打ったように静まり返った。
 帰るに帰れなかった故国の土をいま再び踏んでピアノを弾いているというピアニストの万感の思いと永年にわたって抱き続けてきた郷愁が彼の指先に込められていた。
 聴衆の一人ひとりがそれぞれの<トロイメライ>を、そして過ぎ去ってしまった遠い日々を思い起こしているのだろう、みな人目を憚らずに涙ぐんでいる。
 老ピアニストの思いと聴衆の思いが目には見えない心の世界で見事に共鳴し合っていた。心と心が一体化し融合する平和で穏やかな至福のハーモニーにホール全体が包まれていた。

 穏やかな母の寝顔を思い浮かべながら、母はすでにトロイメライの世界にいるのかもしれないと私は思った。

 (明日…おふくろにトロイメライを聴かせてみよう)


from Ethel Reed
from Ethel Reed "miss traeumerei"-03_green posted by (C)トロイ



追記:

*私のHP『夢幻のスペース・オデッセー』↓

   夢幻のスペース・オデッセー

  HPにも来ていただけると嬉しいです。


*心象風景の画像のある「夢幻のOdyssey(オデッセー)」と「for BLOG_心象風景」はこちらです。↓

   夢幻のOdyssey(オデッセー)

   for BLOG_心象風景

そして、↓

   『for 「575の宙」』

他の画像も見に来ていただけると嬉しいです。


Thank you in advance for your visit.
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

すごい!スーパーハイビジョン ライブビューイング ミラノスカラ座 「リゴレット」

NHKの「ふれあいホール」で催された、
スーパーハイビジョン ライブビューイング
ミラノ・スカラ座 オペラ「リゴレット」
を観てきた。

NHKホールの1階席後方(S席)に設置されたスーパーハイビジョンカメラによる520インチの映像(3,300万画素)を22.2ch のマルチチャンネル三次元音響で楽しむという趣向だ。

ミラノ・スカラ座 オペラ「リゴレット」参考INFO↓
 ミラノスカラ座 2013年 日本公演
ダブルキャストの出演者は9月15日を見てください。

オペラ「リゴレット」の感想というよりも、映像と音響についての印象を述べてみたい。

前奏曲が始まると、22.2チャンネルの音響のもたらす世界の一部がすぐに実感できた。

「呪い」と「呪い」をめぐる運命の轍。
思いもよらぬ悲劇的結末を暗示させる深淵からの重い響き。
それらが音となって私を包みこんだ。

ただ、はじめのうちは音が美しすぎて少々違和感を覚えたのは否めない。
上手く言えないが、ホールなどで身体が受ける独特の空気感みたいなものまでは再現できないように思えた。

第1幕
第1場の公爵邸の大広間での舞踏会。
スーパーハイビジョンカメラによる映像(3,300万画素)によるオペラの世界が目の当たりにあった。
舞台装置、衣装がすごい!
観客の目では識別が難しい舞台の細部までが映像として再現されている。

おかしな表現かもしれないが、綺麗に見えすぎる。
実際に見えるよりもはるかに美しく、肉眼では見逃がしてしまうようなところまでがしっかりと見えるのだ。

気になったのは、
マントヴァ公爵の「あれかこれか」やリゴレットの歌声や台詞の焦点が公爵やリゴレットの位置と動きとは少しずれている気がしたことだ。
これだけの大画面では無理なのかなぁ、と。

第一幕 第2場。
家路につくリゴレット。
彼と殺し屋スパラフチーレとのやり取りでは、二人の影の大小の動きによって、ビジネスとしての駆け引きの模様やそれに伴う二人のそれぞれの心の動きが視覚的にも表現されていた。

第2場になり、遅まきながら、22.2ch のマルチチャンネルの三次元音響の威力を私は感じ始めた。

たとえば、
3階の窓からのジルダとその下にいる「自分は貧しい学生」と名乗ってジルダへの熱き愛を告白した公爵の位置関係が音でもしっかりとわかるようになった。
二人の位置する高低の差や距離感までが音から伝わってくる。すごい!
同じように、リゴレット宅に集結している廷臣たちとリゴレットのやり取りのシーンや廷臣たちによるジルダの誘拐のシーンでも、装置の高さをうまく活かした演出に22.2チャンネルの音響がしっかりと対応できていた。

観客に背を向けて歌っているときは、その歌声がちゃんとそのようにに聴こえ、
高いところで歌いながら去っていくときは、歌声がフェイドアウトしながら去っていく方向さえも表現できている。
音の遠近法!
三次元音響はすでにここまで来ているのだ!

御年70歳を超えるレオ・ヌッチの百戦錬磨のリゴレットと若き世代を代表するメキシコ生まれのマリア・アレハンドレスの清純無垢なジルダの息がピタリと合い、親子の愛とそれぞれが求めるものの容が「娘よ、おまえは私の命」にたいへんよく表現されていたと思う。
ジルダと公爵(ジョルジョ・ベッルージ)の「あなたは私の心の太陽だ」もよかった。
ジルダの「麗しい人の名は」も美しかった。

第2幕
第2幕に入ると、私が抱いていた「綺麗すぎる映像」と音の焦点のズレといった個人的な違和感は解消されていて、オペラ「リゴレット」の世界に私は取り込まれてしまっていた。
リゴレットが娘ジルダの身を案じながら「ララ、ララ」を歌うシーンも、リゴレットの動きと向きに歌声の焦点が合っていて、あらためて三次元映像の素晴らしさを感じた。

リゴレットが歌う「悪魔め、鬼め」は見事だった。さすが、レオ・ヌッチだ。
リゴレットとジルダの「いつも日曜日に教会で~娘よ、お泣き」も、第一幕の「娘よ、おまえは私の命」と同じく、情愛にあふれていてよかった。
第2幕幕切れの「そうだ!復讐だ!」が、第二幕のアンコールになった。観客への大きなプレゼントに、NHKホール内は割れるような観客の拍手と歓声!

第3幕
公爵が歌う「女心の歌」。
あまりにも有名な曲だが、私の好きな曲のひとつでもある。

解説者の奥田佳道さんによると、
「女心の歌」は、ヴェルディ自身も自信作と考えていて、その秘匿に努めたそうだ。

スパラフチーレの妹マッダレーナ(ケテワン・ケモクリーゼ)には、オペラ歌手には珍しくエロ気のある魅力があった。
それが、公爵とマッダレーナの関係性にリアリティを与えていた。

色恋沙汰の公爵とマッダレーナ。
その様子を外から覗いているジルダ、そして公爵への復讐心をさらに高めるリゴレット。
四人のそれぞれの思いが繰り広げられる有名な4重唱。
このシーンも、三次元音響の効果が見事に出ていた。

リストの「リゴレット・パラフレーズ」("Rigoletto Paraphrase")を聴いてみたくなった。

余談だが、
「リゴレット」のパリ初演に、ヴィクトル・ユゴーは観客として招かれたそうだ。
第3幕の4重唱を聴いたユゴーは、「舞台の上で四人に同時に台詞を言わせて、四人の台詞のそれぞれの思いや意味合いを観客に理解させるのは芝居では到底不可能だ」と言ったとか。

殺しの残金と引換えに死体入りの布袋を受け取ったリゴレット。
リゴレットが布袋をミンチョ川に投げ入れようとしたとき、
スパラフチーレの酒場兼安宿の3階の部屋の奥から、公爵が満足気に歌う「女心の歌」が聞こえてくる。
高いところにいる公爵の状況がいわば「天国」であれば、布袋の中は瀕死のジルダであることを知ったリゴレットの状況は地上の「地獄」にあたる。

辱めを受けながら、愛する男・公爵の身代わりなって天に召されるジルダ。
ひとり残されたリゴレットが「ああ、あの呪いだ!」と叫び、幕が下りる。
このシーンも、公爵とリゴレット・ジルダとの位置の高低と三人の斜めの左右の距離感がうまく演出されており、その演出に三次元音響も十二分に応えていた。

幕が下りてから、NHKホールの万雷の拍手と大勢の人たちの歓声がなかなか鳴りやまなかったのもうなずける。

スーパーハイビジョンカメラによる520インチの映像(3,300万画素)を22.2ch のマルチチャンネルの三次元音響が創り出す世界。

気がついたら、映像なのをすっかり忘れて、オペラのステージに入り込んでしまった私がいた(笑)



演出:ジルベール・デフロ
美術:エツィオ・フリジェリオ
衣装:フランカ・スクァルチャピーノ

指揮:グスターボ・ドゥダメル

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

不思議な偶然…

9月15日にNHKの「ふれあいホール」で催されたスーパーハイビジョン ライブビューイング
ミラノ・スカラ座 オペラ「リゴレット」を観に行ったときのことだ。

 参考ブログ:スーパーハイビジョン ライブビューイング ミラノ・スカラ座 オペラ「リゴレット」

第一幕の幕間(休憩)に、私の後席の男性が連れの男性に、彼がイタリアなどにいたときに観たオペラの話を始めた。
やがて、歌劇「カルメン」の話になり、ビゼーの話へ。

「ビゼーかぁ」、と私。
先日、アルフレッド・ハウゼの「真珠採りのタンゴ」について少し述べていたからだ。
私はそのブログの内容のことを思った。
その直後、男性が歌劇「真珠採り」に触れて、アルフレッドハウゼの「真珠採りのタンゴに話が及んだのには驚いた。

まさかの偶然!

こんなこともあるんですね。

 参考ブログ:花のしずく:花星人_VIOLETTA

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

花のしずく:花星人_VIOLETTA

映画などでタンゴを踊るシーンを観ると、
私はアルフレッド・ハウゼ・オーケストラのタンゴを思い出す。
たとえば、「ヴィオレッタに捧げし歌」。
ヴェルディ作曲のオペラ「椿姫」の前奏曲のメロディーを基にしたコンチネンタルタンゴの曲だ。

 ALFRED HAUSE_"VIOLETTA" ↓
 http://www.youtube.com/watch?v=LapunMJr5UU

花のしずく04-花星人(KASEIJIN) Violetta
花のしずく04-花星人(KASEIJIN) Violetta posted by (C)トロイ


オペラからの曲には、ビゼー作曲の歌劇「真珠採り」の"耳に残るは君の歌声"を原曲とした「真珠採りのタンゴ」もある。

 ALFRED HAUSE_"Perlenfischer tango" ↓ 
 http://www.youtube.com/watch?v=iWZXR7agefQ


他に、クラシックの曲からでは、"アルベニスのタンゴ"もあった。

 ALFRED HAUSE_"Tango d'Albeniz" ↓
 http://www.youtube.com/watch?v=N1_bmfsADxk

    薔薇園のタンゴを踊る月影よ


私は小学校~高校までの音楽の時間が嫌いだった。
でも、音楽は大好きで、いろいろなジャンルの曲を聴いていた。
歌謡曲・民謡、ポップス、フォーク、フォルクローレ、シャンソン、ラテン、ロック、ジャズ、ミュージカル、映画音楽…etc.

クラッシックは教材として聞いていた程度であったが、
欧米の映画やジャズ、そしてアルフレッド・ハウゼ・オーケストラのタンゴなどを通じて、クラシックの曲への私の目がどんどん開かれていった。


録画した好きなアニソンのop. & ed.を観ながら、いろいろなジャンルの音楽を聴いてきてよかったと思う。

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プロフィール

KJYD

Author:KJYD
来てくださったかたがたに、そして『拍手』をしてくださったかたがたに、心から

Alles Gute!

どうもありがとう。


*東京散歩の写真、「心象風景」や「ショートストーリー」そして「575の宙に」などに用いた画像など、『フォト蔵』にアルバムとしてアップしてあります。
よろしくお願いいたします。

Thanks a lot.


お願い:

*フォト蔵の画像保存機能の不具合により、ブログに用いた画像の一部が非表示になってしまうことが度々あります。

 非表示になってしまった全ての画像をフォト蔵で再保存してブログに再表示させても、また、他の画像や同じ画像が非表示になってしまいます(T_T)

 非表示になっている画像がありましたらコメント欄などで教えていただけると有難いです。

 よろしくお願いいたします。

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